有限会社 鹿狼の湯いわき・相双エリア

加藤源司さん
福島県新地町と宮城県に跨る「鹿狼山(かろうさん)」。
標高429.3mの山頂には鹿狼神社があり古くから信仰の対象とされてきた。古くから修験道の修業の場としても知られているが、今では登山道も整備され初心者でも気軽に登れる山として親しまれている。
『鹿狼の湯』はこの鹿狼山の登山口にある。部屋数6室、日帰り入浴もできる小さな宿だが開業は明治8年、まもなく150周年を迎える。後継者であり現在、事業承継中の加藤正司さんにお話を伺った。

太平洋が一望できるお風呂と新地町の十割そば

『鹿狼の湯』は鹿狼山からの湧水を使用している。「一番の自慢は何といってもお風呂と客室から一望できる太平洋のこの景色です」加藤さんの指し示す先には太平洋のパノラマビューが広がる。天気の良い朝は海からの日の出を拝むことができ、年末年始の予約は毎年直ぐに埋まってしまうほどの人気だ。地元だけでなく鹿狼山の登山客も利用するなど多くの人に愛されている。

「それともうひとつ、新地町産の蕎麦粉を使った十割そばもぜひ食べていただきたいです」と加藤さんは語る。福島県の蕎麦といえば会津のイメージが強いが、以前から新地町でも蕎麦が盛んだという。父の源司さんが昔やっていた酪農をやめ、牧草の休耕地で蕎麦の栽培を始めた。「今では40名ほどで組合を作ってやっています。そこで収穫した蕎麦を一括してうちで買い取っているんです」
今のところ新地町産の蕎麦粉で打ったそばが食べられるのは『鹿狼の湯』だけとのこと。
十割そばと聞けば少しボソボソするイメージがあるが、『鹿狼の湯』の「食処どんぐり」で提供される十割そばは他と違ってコシが強く喉越しも良い。打ち方や押し切り等々研究を重ねたそうだ。

度重なる災害からの復興と事業承継

2011年の東日本大震災、その後も2019年の東日本台風による敷地内の土砂崩れ、2021年と2022年福島県沖地震での施設や設備の一部損壊と立て続けに災害に見舞われ、さらには新型コロナウイルス感染症の拡大で売上も減少。父のもとで働いていた加藤さんも「何とかしなければ」との思いが募る。
これまでも災害後の事業建て直しのための補助金申請など商工会には事あるごとに相談していたが、2022年に事業承継を本格的に考えるようになったのを機に、経営の安定化を目指して経営指導員と二人三脚で取り組むことにした。
まずは現状を分析し目標を定め、達成のためにどうすれば良いか何度も話し合いが続いた。「商工会に相談することで事業の再確認ができたのと同時に、事業の参考になる様々な情報を得ることもできたのが有り難かったです」と加藤さんは語る。

「鹿狼の湯」の魅力を伝えること

経営指導員と日々検討した結果、まずは『鹿狼の湯』の魅力を伝え認知度を向上させることが大事という結論となり、商工会の支援を受けながら「持続化補助金」を活用し、ホームページの整備や、のぼり旗・チラシ・パンフレットの作成などを積極的に行なった。
さらにはFacebookやInstagramなどSNSでのタイムリーな情報発信も始めた。こういった広報の効果は中々測りづらいところではあるが、ネットを見たと東京からの予約が入ったり、わざわざ他県から蕎麦粉を買いに足を運んでくれたりと「少しずつ手応えを感じつつあります」と加藤さんの笑顔から確かな自信が伺える。地元のイベントにも度々声が掛かるようになった。

これからの「鹿狼の湯」確実に一歩一歩


周りの人の話にしっかり耳を傾けるよう心掛けているという加藤さん。事業承継に対する不安は?と尋ねたところ「自身の業務が増え、時間を思うように作れないことです。まずは親がやっていた仕事を覚えることを優先しています」という回答。大掛かりなことはすぐにはできないが、今できることから段階的に進めていく。
作成したホームページやSNSの有効活用、蕎麦粉を使った天ぷらやそばジェラート・スムージーなど新商品の開発などにも取り組んでいくことで売上拡大、雇用増加、そして経営安定化を目指す。その先は積極的に外に出て他の経営者の方々と人脈を築き、刺激をもらいながら経営者としての知見を深め、自ら広告塔となって事業に還元していきたいという。確実に一歩一歩、目の前の事業承継とその先にある『鹿狼の湯』の明るい未来に向けて、加藤さんの歩みは続く。

有限会社 鹿狼の湯 有限会社 鹿狼の湯
加藤源司
福島県相馬郡新地町杉目字飯樋52
明治8年
宿泊業、飲食業、公衆浴場
新地町商工会

福島県商工会連合会イノベーションサポート INNOVATION SUPPORT

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