なかむらや旅館福島県福島市飯坂町

七代目 阿部寛さん
飯坂温泉の老舗『なかむらや旅館』は、建物全体が貴重な文化財である。以前からあった顧客の高齢化・地域の集客力低下といった抗えない流れに加え、東日本大震災で被災。存続の危機を迎えたことで、課題が鮮明に浮かび上がった。

“文化財の宿”から発信、今がその時

業績不振は震災のせい?

飯坂温泉『なかむらや旅館』は明治23年創業。赤瓦白壁土蔵造りの建物は国登録有形文化財に指定されている。「明治館」最上階にある唐木・紫檀・黒檀・鉄刀木を駆使した床の間や杉まさ目のらん間は、現在は再現できない貴重な素材と仕事だ。洗面所の可憐な花のガラス絵は、当時最先端だったアールヌーボーの流れだろうか。階段の縁はすり減って丸みを帯び、人が触れた場所には柔らかいツヤがある。
そんな風情あふれる宿は、震災で被災し大規模半壊と認定された。七代目・阿部寛さんは、130年の歴史にピリオドを打つことも覚悟したという。
その後に続くのは意外な言葉だった。「廃業を考えたのは、その時が初めてではありません」。実はそれ以前から、業績が下降傾向にあった。震災に見舞われなくても、経営は先細りになっていたはず……。むしろ窮地に追い込まれたことで、やるべきことが分かり、吹っ切れたという。
存続を決めた時、被災で廃業を決断した別地域の老舗旅館から格子の引き戸を託された。顧客からは欅(ケヤキ)の柱が贈られた。商工会のサポートで各種助成金の承認を受け、文化財修復免許を持つ専門家の手で修復を施し、一部の柱は震災の記録としてあえて着色しないで据えた。
パッチワークの様に、たくさんの人から差し出された物と思いで修復された建物は一昨年、『福島県建築文化賞・復興賞』を受賞した。

SAMURAIルーム

「今までは業績不振に目をつぶり、老舗というプライドだけで守っているつもりになっていました」と阿部さんは自分に容赦ない。
昨年、先代女将から本格的に事業承継したのをきっかけに、ターゲットを具体的にイメージするようになった。従来の客層は人生経験がある40歳後半~75歳の大人が主流だったが、これからは若い世代や外国人にも来てほしい。 ちなみに一番狭い客室の高さは約2メートル。外国人が身長より低い鴨居をくぐる様子に「快適ではないのかな?」と、常々申し訳なく思っていたという阿部さん。
ある時、古いものを尊重する国民性があるイギリス人に「天井が低いのは、武士が刀を振り回せないようにするためです。また、床の高さは武士の身分を表しており、この部屋は床を30㎝上げてあります」と解説したところ、「それじゃここはサムライルームですね」といたく喜ばれた。その人の視点からは、狭さが魅力として映ったことが新鮮な驚きだったという。
昔ながらの建物に、広さや機能性を求めても限界がある。昨今あたりまえに期待される快適性と、「文化財に泊ってもらう」という変えられない部分の接点を探す毎日だ。

満を持してのホームページ開設

今まで表立ったPRをしていなかった『なかむらや旅館』は、いわば知る人ぞ知る隠れ宿的な存在。これからは誰でも予約できる仕組みが必須、今がその時期とホームページ開設に着手した。
商工会の担当者と他社の事例を比較検討していた時、残念な思いをした。「ある旅館のホームページで、すり切れた畳をきれいに画像修正して掲載していたんです」。もてなすことを生業とする同業者として情けなかった。だからなおさら「どう伝えるか」を精査したい。ちゃんとしたものを作れば、必ず新しいリピーター確保につながるはずだから。
一方、先代女将はネット予約に今も消極的らしい。予約の電話で声を聞くと相手の雰囲気が分かる、今までその第一印象が間違ったことがないというのが反対の理由だという。
「言葉を交わすところから始めたいという女将の姿勢もうちの宝ですから、予約方法の選択肢を増やしても、“精神的な部分”は引き継いでいくつもりです」。
そう語る七代目は、さっきからサムライルームの障子紙のわずかなめくれが気になって仕方がない。130歳の建物が現役の理由と、『なかむらや旅館』の“精神的な部分”を垣間見た気がした。

日帰り入浴 入浴料700円/1時間

隣にある『鯖湖湯』と同じ源泉を使っている。

なかむらや旅館のHPはこちらから!

なかむらや旅館 なかむらや旅館
阿部 寛
福島県福島市飯坂町字湯沢18
明治23年11月1日
旅館業
創業明治23年。建物は江戸末期の建築で国登録有形文化財に指定されています。
飯坂温泉駅から徒歩4分。料理は地物野菜と魚中心の郷土料理です。
お風呂は完全貸切でご利用頂けます。(源泉かけ流し)
部屋 和室5部屋/無料駐車場 5台

福島県商工会連合会イノベーションサポート INNOVATION SUPPORT

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