天国茶屋福島県大沼郡会津美里町

代表 遠藤浩治さん
会津美里町で山菜・野鮎・松茸を専門に扱う季節料理店『天国茶屋』は創業50年。吟味した国内産品を扱ってきたが、震災による野生キノコの出荷制限で存続の危機に陥る。そんな中、二代目が見つけた活路は“発想の転換”から始まった。

付加価値をうたう“異端児”の挑戦

マイナスからのスタート

転機は東日本大震災。原発事故により県内産野生キノコの取り扱いができなくなり、売り上げは20%まで落ち込んだ。
昨年、事業承継した二代目・遠藤浩治さんは振り返る。
「一時は廃業もちらつきました。無人の店で、自分の強みは何だろう?と考え続けました。それは“今までどれだけ人と違う経験をしてきたか?”ではないかと思ったんです」。
松茸を採った人から直接買い付けるから、本物に触れた回数は誰より多く、シーズン中に割く数も料理人の数百倍に上る。経験から身に付けたのは、風味や中の状態を的確に予測できるスキル。自分の武器はこの“目利き力”、大切なものは身の内にあると気付く。
そんな“発想の転換”により、仕入れ先を他県に求め、同業者でも見極めが難しい虫食いを外して、極上品を首都圏に提供するビジネスに乗り出した。また、どんな相手と取引しても見劣りしない様、ロゴマークやパッケージを整え、屋号を商標登録した。
しかし時には、出荷制限地域の個人事業主というだけで軽く扱われ、法外な値引きを求められることもあったという。
「マイナスイメージからのスタートでしたが、ビジネスの変革期には売り上げアップは望めないものです。目標を設定し、ひとつずつ進めていけばいいだけ」と前向きだ。

コンクールに出品

ある時、商工会の担当者から、食品コンクールに『天国茶屋』の松茸としてエントリーしてみませんか?と勧められる。
「どんなに“目利き力”があると言っても、自称・松茸名人では社会的な説得力はありません。ビジネスの舞台に上がるためにタイトルが欲しいと思い、料理専門誌『月刊・料理王国・100選2018』への出品を決めました」。
しかしそれまで、同様のコンクールに天然物がエントリーされた前例はなかった。理由は「指定日に用意できるかどうか予測できない」という自然の産物ならではの特徴による。国内産が市場のわずか2%という松茸も例外ではなかったが、視点を変えれば『天国茶屋』の半世紀の真価が問われたということだ。
全国のあらゆる山のデータを見ながら、8月のエントリーと10月の評会当日に、最高の状態で出品できる唯一無二の松茸を探したという遠藤さん。「ある」と確信できなかったら出品はあきらめようと決めていた。
ふたを開ければ、結果はトップ10に入る『優秀賞』受賞。福島県企業としても国産キノコ類としても初の快挙となった。
稀有で繊細な天然松茸が、コンクール時その場所にあるという凄さ。背景にある“目利き力”や仕入れ先ネットワーク、新鮮さを保つ知識や技術もまた、付加価値として評価されたと遠藤さんは考えている。賞という“誰も否定できないもの”を手にしたことが、次のステップへの足掛かりとなった。

自分の商品に遠慮しない

松茸は風味・希少性・価格共に他に類を見ない食材である。受賞に弾みを付けた遠藤さんは、ターゲットを「人の多いところ」に定め、都内の小売店等と交渉を重ねている。
ある一流デパートの担当者は、市場に流通しない“日本のどこにもない商品”を求めて会津美里町にやって来た。その際、本当に良い物なら、距離や価格は取引の障害にならないことを実感した。
「地方の優れた商品の中には、付加価値という発想に遠慮し、作り手自ら過小評価している例が少なくないと思います。でも私は自分の商品に遠慮したくないんです」。
遠藤さんは最近、古来の郷土料理の素材や調理方法が、イスラム教の戒律に反さないことに着目し、事業承継補助金を活用して食のユニバーサル化に取り組んでいる。目標は東京オリンピック。「さらに人の多いところですね」と言ったら、「異端児ですからね」と笑った。

本物を食べつくすコース料理

時価でなく定価表示できるのは、食材を用意できる自信の表れだ。
松茸コース…20,000円〜(税別)2名様より
「イワナまたは野鮎炭火塩焼き」と
松茸ごはん定食…3,600円(税別)5名様より

※松茸料理は9~11月上旬・完全予約制

天国茶屋のHPはこちらから!

玄関の戸板材に使われているのは、会津鶴ヶ城本丸にあった赤松の無垢材。製材時に鉛の鉄砲玉が埋まっているのが見つかった。戊辰戦争の記憶を留める貴重な歴史遺産。

天国茶屋 天国茶屋
遠藤 浩治
福島県大沼郡会津美里町穂馬字天国甲974
昭和41年4月
飲食業(松茸料理・郷土料理)
目利き力を活かして国内産天然食材を厳選し、
主に松茸料理・郷土料理を提供する飲食店

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