地魚海鮮 海楽亭福島県いわき市

東日本大震災後、新たなお客様を求めて、本格的に干物の製造販売も始めた関根裕昭さん。地魚へのこだわりは「うまいものはうまい」という自信と、故郷への敬意に裏付けされている。

“常磐もの”の新鮮な干物を食べてほしい

海が止まった日

関根裕昭さんの父は漁師、家族の多くも漁師で、いつも近くに海を感じて育った。50歳を目前にした時、そんな環境と自身の知識や技術に背中を押され、地魚料理レストラン『海楽亭』をオープン。独立するならこれが最後のチャンスと覚悟を決めたという。
そのわずか1年後、震災に見舞われる。建物に大きな被害はなかったが、原発事故に起因する規制で県内での水揚げがストップし、一時的な閉店を余儀なくされた。
「“海が止まった”と思いました」。
店は半年後に再オープンしたが、今度は悪気のない風評に苦しめられた。来店した人から、他の客の前で安全性を問われた時は「行政できちんと数値を出していますから、自分で確認し判断してください」とだけ答えた。

『くさくないね』「当り前だよ」

売上は震災前の3分の1に落ち込んだ。「何かやらなければ……」と危機感を募らせた関根さんは、干物の製造販売に着手する。漁港から直接仕入れて干物を作り、店内の小型冷蔵庫で販売しながら、段階的に真空パック機やプレハブ冷凍庫を導入し規模を広げた。
地域のイベントにも積極的に参加し、干物を焼いて試食を勧めた。「買わなくてもいいから、とにかく食べてみて」とPRする関根さんに、試食した人が答える。『くさくないね』「当り前だよ」。自分が子どもの頃から食べてきた漁師町の干物だもの、食べれば絶対に分かってもらえるはずだ。
うれしいこともあった。『道の駅よつくら港』で偶然試食したスーパーの担当者から絶賛され、取引の依頼が舞い込んだのだ。
しかし、生産量が増えるに連れ、魚をさばく腕が痛み、関根さんを悩ませる。干物作りは最初に頭・内臓・ウロコを取る。その手間を惜しむと、すぐに鮮度が落ちるから、その日のうちにやり遂げなければならない。15時に始めた数千尾の下ごしらえは深夜に及び、道具を握る手が悲鳴を上げた。
2016年、体力の限界を感じ商工会に相談すると担当者はウロコ取り機購入に向けた『ものづくり補助金』申請を提案、採択されるまで熱心にサポートしてくれたという。

100㎏のカレイもこわくない

念願の機械導入により、干物作りの生産能力は数倍になった。今までは天候により水揚げ量が左右されるため、日によって出荷数に差があったが、できる時にまとめて作りストックを持つことで、安定して供給できるようになった。ストックと言っても従来同様、仕入れたその日に処理・冷凍保存するので、新鮮さに変わりはない。
人が行っていた作業の一部を機械が担うことで人員削減ができ、やがては新たな雇用を生むと関根さんは考えている。100㎏のカレイを仕入れても、大丈夫。気が付くと、レストランの売上も回復の兆しが見えてきた。
地魚にこだわる理由を尋ねると、「皆が大切にしてきたものを、ここで切ったらゼロになってしまうから」と、自分に言い聞かせる様に言った。地元のもので実績を作ることが、地域活性化のヒントにもなると信じている。「うまいものはうまいんです!」。海の人の言葉は簡潔だ。
漁師だった父はかつて、船に大漁旗を掲げた。『海楽亭』の店先に掲げられた“のぼり旗”には「地魚」の文字が躍る。これは息子の大漁旗だ。

旬の地魚で作ったこだわりの干物

「『魚嫌いの子どもが、この干物は喜んで食べた』と言われて感激しました」と関根さん。
鯛つみれ 350円
大きす干物 350円

地魚海鮮 海楽亭
関根 裕昭
福島県いわき市勿来町窪田外城844
平成22年4月
飲食業・水産物製造小売業
「常磐もの」海鮮料理・干物製造販売

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